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2007-07-19

[] 小室 直樹『日本人のための憲法原論集英社インターナショナル 03:59  小室 直樹『[[日本人のための憲法原論]]』集英社インターナショナル - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク -  小室 直樹『[[日本人のための憲法原論]]』集英社インターナショナル - t_traceの日記

日本人のための憲法原論

日本人のための憲法原論

本書は平易な文章で「憲法」を解説するために、編集者に対する講義を行う形式で書かれている。文章の平易さとは裏腹に、冒頭からすぐに目から鱗が落ちるような講義でハマり、最終章の民主主義資本主義も死んだ現代日本像を描き出す部分まで一気に読み切ってしまった。

ネタばれさせるのは本意ではないが、本書のボリュームと豊かさならば一つぐらい許されるだろう。2章の冒頭で、こんな問いが提示される。

Q 憲法は誰のために書かれた法律か?

この問いは本書全体を通して語られるし定型的な「憲法国家人民契約である」という言葉もあるのでついスルーしてしまうが、次の問答には衝撃を受けた。

Q 刑法は誰のために書かれた法律か?

刑法にはこれこれの罪状にこれだけの罰則が適用されるとは記されているが、確かに人を殺めるなとも盗むなとも記されていない。確かに刑法を破ることができるのは裁判官だけだ。

よって刑法は「A 裁判官のためのものである。」となる。

講義はさらに、裁判というテーマを通して刑事訴訟法裁判で裁かれているのは誰?と問い、そして現代の日本で法の精神が失われている状況、刑事裁判で裁かれる実態としての「行政」へと講義は進められ、冒頭の「憲法は……」の問いに戻るが、これだけの内容が本書の短い第2章で過不足無く語られる。ものすごい筆力だ。


本書は大きく3部に分かれる。刺激的な原論をぶつけてくる序段、緻密に語られる西洋思想政治経済史で占められる中段、そして明治日本が獲得し、私たちが現代日本で失ってしまった民主主義が描かれる結論部分。内容を考えると短いとはいえない500ページちょっとでまとめられているのだが、憲法民主主義という儚い英知の結晶が結実するまで、そしてそれらがいともたやすく蹂躙されてしまう人類の営為を語ることに本書は成功している。


憲法に限らず、国家民主主義資本主義を考えるために本格的な啓蒙書として読むのもいいが、知的好奇心を満たすためのエンターテイメントにもなっているのが、またいい。

民主主義が簡単に陥る独裁という甘い蜜を語る際のヒトラーの扱いが秀逸。彼が行った天才的な経済政策や、日本の政治家が民主主義という観点から見たときに公約を死守した彼の足元にも及ばないという視点から描かれる部分などは、講義形式でやってるからこそ許容される冒険だ。普通の文体でこれをやられると痛いことになりかねない。


また、日本国憲法平和に関する条文について書かれた一章は必読パート日本と同じ内容の平和憲法を持つ国など珍しくもなんともないし、手本となる条文が第一次大戦後に存在していたということや、その条文の元になった思想を堅持したことがヒトラーの専横を許し、第二次世界大戦の引き金となったもっと知られていい。

実際、日本憲法では明確な徴兵も、核・生物化学兵器も、外国の軍事基地をもつことも禁止されてはいない。珍しくもなんともない条文しかない憲法のどこが「平和」なのだろうか。


こうやってみると、日本の現状を批判ばかりしている書籍に見えるかもしれないが、著者が読者に送るエールは明快だ。本書の冒頭ではヒトラーを選んだドイツ国民ワイマール憲法を殺した「憲法の死」が描かれ、現代日本も同じかもっと悪い状況である。と始まるが、その後の章では様々な事例を引いて「民主主義の生まれた瞬間」「憲法誕生」「憲法の復活」が力強く描かれ、日本国憲法に血を通わせるために私たちにできることが立ち上がってくる。


本書は2001年に出版された「僕たちの憲法学」の愛蔵版とのことだが、この数年でより悪化した日本の状況が書かれていないのが大変もったいない。増補版が出版されたら絶対に購入したいところだ。

来週末は選挙だ。いいタイミングで本書に出会えたことに感謝

評価:☆☆☆☆・

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