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2007-09-11

[]ダン・ブラウン越前敏弥訳「デセプション・ポイント角川書店 00:33 ダン・ブラウン著 越前敏弥訳「[[デセプション・ポイント]]」角川書店 - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - ダン・ブラウン著 越前敏弥訳「[[デセプション・ポイント]]」角川書店 - t_traceの日記

デセプション・ポイント〈上〉 (角川文庫)

デセプション・ポイント〈上〉 (角川文庫)

デセプション・ポイント〈下〉 (角川文庫)

デセプション・ポイント〈下〉 (角川文庫)

ダン・ブラウンの「ワンデイ・シリーズ」とはどこにも書いていないが、ラングドン教授主人公の「天使と悪魔」「ダ・ヴィンチ・コード」同様に、大きな陰謀主人公が翻弄される「一日」を描いた小説だ。


NASAの巨額予算を争点として行われている大統領選挙のさなか、失敗を繰り返すNASA予算を削減し宇宙開発民営化することを公約とする旗色のいいセジュウィック上院議員の娘レイチェルは、勤務先である国家安全保証局からリベラル大統領じきじきの命令によってグリーンランドの氷河に設置されたNASAの調査基地へ飛ぶ。

NASAグリーンランドで虫のような生き物の化石を含んだ隕石を発見していていた。大統領はこの発見を一大イベントに仕立てあげるために、レイチェルと同様に数名の民間人NASAの基地へ送り込み、大統領選挙の形勢と地に落ちたNASAの評判を、ショーアップされた記者会見で逆転させることを狙っていた。

レイチェルはデイヴィッド・アッテンボローを思わせるカリスマ海洋学者ら派遣されてきた民間人らから説明を聞き、氷河の中から引き上げられた隕石を確認するが……

舞台グリーンランドから潜水艦ニューメキシコ沖の海洋調査船へと移動するレイチェル一行と、セジュウィック候補の秘書D.C.陰謀に翻弄されるパートに大きく分かれる……と盛りだくさんの出来事が一日に詰め込まれている。

怪しげな未来技術満載の「天使と悪魔」で覚悟しておくべきだったが、ダン・ブラウン科学理解は油断がならない。

海洋学者がオオグソクムシ - Google Image Searchを知らなかったりホットプルームの真上に調査船を停泊させていたり、無給油のF-14音速巡航してグリーンランドまで飛んでみたり、原理が全く分からない氷の弾丸だののヒミツ兵器だったりするのは、「ダ・ヴィンチ・コード」で人文系ネタを膨らませるのとはちょっと違った意味になる。人文学系のネタならエキセントリックな学説を信じている、で済むところなんだが、基礎的な情報を知らなかったりすると登場人物が安っぽくなってしまう。


D.C.パートもよくできているとは言いがたい。あまりに意のままに行動する登場人物がやや幼く見えてしまうし、大統領選のスケール感が感じられない。ハリウッドドラマを強烈に意識しているようで、キャラクターのルックスはいろいろ取り混ぜられている。扱っている時間が一日しかないので苦しいのはわかるが、なんだか安手のドラマ脚本のようだ。


ダ・ヴィンチ・コードはそうでもなかったが、本書はかなりスルー力を上げて薄目で読まなければならなかった。とりあえず科学、軍事系のブレーンは入れ替えたほうがいいぞ。

評価:☆☆・・・


[]福井 晴敏川の深さは講談社 00:25 福井 晴敏 「[[川の深さは]]」講談社 - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 福井 晴敏 「[[川の深さは]]」講談社 - t_traceの日記

川の深さは (講談社文庫)

川の深さは (講談社文庫)

井本は何冊か読んでいたが、やはり原点とされる本書は読んでおきたかった。

実質上の処女作ということだが、物語の骨子は驚くほど後のシリーズと共通している。特殊な訓練を受けた少年が、任務を果たす過程で主権無き国家日本と向き合う姿に第三者(本作では辞職した警官)が共感していく。この過程で兵士として育てられた少年がこだわる「任務」が強いアイロニーを演出する、という筋書きだ。


如月シリーズでお馴染みのDICE発足に絡む話なので、他を読む前に読んでおけばよかった。後の作品と比較すると、どうしても粗い部分が目立つ。特に少年が登場するパートは典型的な逃避行になるので、様々な仕掛けで緩和されていながら受ける印象はどうしてもか弱い少女を守る少年の健気さを主体とした類型的な印象になってしまう。

如月 行がやはりセンチな「絵」を人間性の拠り所としているが、その部分に関してはそれほど甘ったるくなっていないことを考えると、完成度は高くてもやはり処女作なのだなぁ。


とりあえず、読むだけ読んでおいてよかった。

評価:☆☆・・・

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2007-09-10

[]トニー・ギグレオCHAOS01:18 トニー・ギグレオ 「[[CHAOS]]」 - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - トニー・ギグレオ 「[[CHAOS]]」 - t_traceの日記

カオス<CHAOS> DTSスペシャル・エディション [DVD]

カオス DTSスペシャル・エディション [DVD]

題名からカオス理論を枕にしていたり主人公が仏典をひいたりするが、台詞にちょろっと引用される程度で本編には何の関係もない。脚本家インテリ指向だったんだろうけどプロデューサー監督が削ったか、力量及ばずプロットにまでは反映されていない、ってところかな。


キャストと演出は見事。知的でタフなな銀行強盗を演じるウェズリー・スナイプス存在感が、全編を引き締めている。

人質を射殺し謹慎していたが犯人の指名によって事件を担当することになった刑事と新人が銀行強盗を追う。という筋書きだが、数シーンごとに新たな事実が判明する展開がスピーディでいい。

後半驚いたのだけど、錯綜した事件の解明までのシーンが、主要な登場人物の死までを含めて一日そこらの出来事に凝縮されている。


見終わった後、この「一日」に引っかかってしまった。

「24」の影響でもないだろうが、最近ちょっと読んでみたダン・ブラウンもワンデイミステリと言いたくなるぐらい無理矢理一日に詰め込んだ話を作る。流行なのかな。

評価:☆☆☆・・


[]宮嶋 茂樹 「不肖・宮嶋のネェちゃん撮らせんかい文藝春秋 01:13 宮嶋 茂樹 「[[不肖・宮嶋のネェちゃん撮らせんかい]]」 文藝春秋 - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - 宮嶋 茂樹 「[[不肖・宮嶋のネェちゃん撮らせんかい]]」 文藝春秋 - t_traceの日記

不肖・宮嶋のネェちゃん撮らせんかい! (文春文庫PLUS)

不肖・宮嶋のネェちゃん撮らせんかい! (文春文庫PLUS)

宮嶋氏のルポ・取材エッセイはけっこう好きで、書店に行くとつい買ってしまうし、長い出張に出るときは必ず一冊「不肖・宮嶋シリーズを鞄に放り込んでいく。


本書「ネェちゃん撮らせろや」は明石代表が帰った後の紛争地域で美女図鑑をやるという企画ルポタージュだ。撮影紀行中に停戦の知らせも飛び込む。


宮嶋氏の強烈なリアリズムに満ちた文章は本書でも健在だ。南極滞在記や金正日撮影ルポも面白かったが、現代の戦場を渡り歩いてきた筆者が送る「人間戦争」がテーマなので文章が熱い。

序文をはじめ、宮嶋氏は本書で繰り返し企画不謹慎であることを告白しつつ、糾弾するであろう人々に、戦争を止めるために行った行為を問う。アメリカ大使館戦争介入を依頼するためのデモを繰り返す人々の風景など、メディアでは描かれない戦地の現状を私は知らなかった。


この宮嶋氏の企画が高く買ってもらえる不謹慎写真を掲載する「美女図鑑」であったとしても、紛争地域の記事が100万部を越える週刊誌に載せられることに変わりはない。最終章でグロズヌイを去る筆者の独白は、乱暴に書かれた文章ながら長い余韻を残した。


戦地のスリルや不自由な国の異国情緒が軽薄な文章で綴られているのでぱらっと書店で斜め読みすると居酒屋で他人の自慢話が聞こえてくるような気分になるかもしれないが、しばらく読んでいると出張帰りの友人が聞かせてくれる異国の土産話のように感じられるから不思議だ。


評価:☆☆☆・・

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2007-07-19

[] 小室 直樹『日本人のための憲法原論集英社インターナショナル 03:59  小室 直樹『[[日本人のための憲法原論]]』集英社インターナショナル - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク -  小室 直樹『[[日本人のための憲法原論]]』集英社インターナショナル - t_traceの日記

日本人のための憲法原論

日本人のための憲法原論

本書は平易な文章で「憲法」を解説するために、編集者に対する講義を行う形式で書かれている。文章の平易さとは裏腹に、冒頭からすぐに目から鱗が落ちるような講義でハマり、最終章の民主主義資本主義も死んだ現代日本像を描き出す部分まで一気に読み切ってしまった。

ネタばれさせるのは本意ではないが、本書のボリュームと豊かさならば一つぐらい許されるだろう。2章の冒頭で、こんな問いが提示される。

Q 憲法は誰のために書かれた法律か?

この問いは本書全体を通して語られるし定型的な「憲法国家人民契約である」という言葉もあるのでついスルーしてしまうが、次の問答には衝撃を受けた。

Q 刑法は誰のために書かれた法律か?

刑法にはこれこれの罪状にこれだけの罰則が適用されるとは記されているが、確かに人を殺めるなとも盗むなとも記されていない。確かに刑法を破ることができるのは裁判官だけだ。

よって刑法は「A 裁判官のためのものである。」となる。

講義はさらに、裁判というテーマを通して刑事訴訟法裁判で裁かれているのは誰?と問い、そして現代の日本で法の精神が失われている状況、刑事裁判で裁かれる実態としての「行政」へと講義は進められ、冒頭の「憲法は……」の問いに戻るが、これだけの内容が本書の短い第2章で過不足無く語られる。ものすごい筆力だ。


本書は大きく3部に分かれる。刺激的な原論をぶつけてくる序段、緻密に語られる西洋思想政治経済史で占められる中段、そして明治日本が獲得し、私たちが現代日本で失ってしまった民主主義が描かれる結論部分。内容を考えると短いとはいえない500ページちょっとでまとめられているのだが、憲法民主主義という儚い英知の結晶が結実するまで、そしてそれらがいともたやすく蹂躙されてしまう人類の営為を語ることに本書は成功している。


憲法に限らず、国家民主主義資本主義を考えるために本格的な啓蒙書として読むのもいいが、知的好奇心を満たすためのエンターテイメントにもなっているのが、またいい。

民主主義が簡単に陥る独裁という甘い蜜を語る際のヒトラーの扱いが秀逸。彼が行った天才的な経済政策や、日本の政治家が民主主義という観点から見たときに公約を死守した彼の足元にも及ばないという視点から描かれる部分などは、講義形式でやってるからこそ許容される冒険だ。普通の文体でこれをやられると痛いことになりかねない。


また、日本国憲法平和に関する条文について書かれた一章は必読パート日本と同じ内容の平和憲法を持つ国など珍しくもなんともないし、手本となる条文が第一次大戦後に存在していたということや、その条文の元になった思想を堅持したことがヒトラーの専横を許し、第二次世界大戦の引き金となったもっと知られていい。

実際、日本憲法では明確な徴兵も、核・生物化学兵器も、外国の軍事基地をもつことも禁止されてはいない。珍しくもなんともない条文しかない憲法のどこが「平和」なのだろうか。


こうやってみると、日本の現状を批判ばかりしている書籍に見えるかもしれないが、著者が読者に送るエールは明快だ。本書の冒頭ではヒトラーを選んだドイツ国民ワイマール憲法を殺した「憲法の死」が描かれ、現代日本も同じかもっと悪い状況である。と始まるが、その後の章では様々な事例を引いて「民主主義の生まれた瞬間」「憲法誕生」「憲法の復活」が力強く描かれ、日本国憲法に血を通わせるために私たちにできることが立ち上がってくる。


本書は2001年に出版された「僕たちの憲法学」の愛蔵版とのことだが、この数年でより悪化した日本の状況が書かれていないのが大変もったいない。増補版が出版されたら絶対に購入したいところだ。

来週末は選挙だ。いいタイミングで本書に出会えたことに感謝

評価:☆☆☆☆・

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2007-06-23

[][]デヴィッド・エリスセルラー02:22 デヴィッド・エリス『[[セルラー]]』 - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - デヴィッド・エリス『[[セルラー]]』 - t_traceの日記

セルラー [DVD]

セルラー [DVD]

冒頭でいきなり拉致された女性が、壊された電話で掛けた先はビーチにいる若者NOKIA。通話を切ることができない状況で、若者が圏外やバッテリ切れ、混線(日本だとほとんどないけど、アメリカ中国ではたまに遭遇したので結構普通に混線するようだ)などのトラブルに遭いながら、拉致グループと追いかけっこになる。

携帯を切れないというシチュエーションアイディアも秀逸だが、拉致監禁汚職というきつい状況を扱いながら、ポップな雰囲気を最後の最後まで崩さなかったのは見事。

キャストも魅力的。眼鏡とマリオひげの似合う定年間際の警官や2度もポルシェを奪われる弁護士、いいねぇ。

大変楽しいエンターテイメント映画だった。

『フォーンブース』で電話を通して現代社会に強いメッセージを送りつけた脚本家ラリーコーエンの原案だそうだ。納得。携帯の画面のはめ込み合成がちょっと粗かったな。

評価:☆☆☆・・

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2007-06-17

[][][]マット・リドレー著 中村佳子, 斉藤隆央訳『やわらかな遺伝子紀伊国屋書店 02:34 マット・リドレー著 中村佳子, 斉藤隆央訳『[[やわらかな遺伝子]]』紀伊国屋書店 - t_traceの日記 を含むブックマーク はてなブックマーク - マット・リドレー著 中村佳子, 斉藤隆央訳『[[やわらかな遺伝子]]』紀伊国屋書店 - t_traceの日記

やわらかな遺伝子

やわらかな遺伝子

ゲノムが語る23の物語ですっかり参ってしまったマット・リドレーの、現時点での代表作nature via nurture」の訳書を読んだ。書店で「nature via nurture」と大書された表紙を見るまで、数々の和訳書籍で「生まれか育ちか(nature via nurture)」や「生まれと育ち」として引用されているものすごく面白そうなマット・リドレーの書籍が和訳されているとは思っていなかった。確かに、『やわらかな遺伝子』のほが売れそうな書名ではある。ちなみに、原著の副題はGenes, Experience and What makes us humanとなっている。稚拙な訳で申し訳ないが「遺伝、経験、そして我々人間を形作るもの」となるだろうか。

本書はゲノム解析や行動実験社会学フィールドワーク過去実験の再検証などの様々な分野の最新の研究成果をもとに描き出された、「生まれは育ちを通して」成り立っている人間観を提案する意欲作だ。

この書籍がまとめ直そうとしている分野の広さは読み始めるとすぐにわかる。序章で12人(ダーウィンフランシス・ゴールトン、ウィリアムジェームズ、ヒューゴー・ド・フリース、パヴロフ、ジョン・ブローダス・ワトソンエミールクレペリンフロイトエミール・デュルケームフランツボアズ、ジャン・ピアジェ、コンラートローレンツ)の科学者が紹介される。本書は、前半で歴史的に重要発見や発言を行ったこの12人の科学者が提唱した動物(や人間)の遺伝的あるいは後天的な決定論について、最新の研究成果をもとに、彼らの理論が正しかったことを訴えつつ、彼らや同時代の学者が、先天的あるいは後天的な決定論に固執したことが間違いであったことを描く。ダーウィンは別格としても、心理学動物行動学などの研究分野を丸ごと立ち上げたような巨人の事績を「生まれは育ちを通して」というスコープでまとめていく筆力は圧巻だ。また、前半の章末には、生まれと育ちの片側だけに着目してしまった彼らの理論をもとに描かれるグロテスクユートピアを紹介し、生まれに依拠したナチ優生学や、育ちに依拠したコミュニスト人間工場へ強く批判を行っている。

前半で「生まれは育ちを通して」経験に反応する遺伝子、というスコープに豊かな肉付けを終えた著者は、最終の2章で畳み掛けてくる。特に第9章「遺伝子」の七つの意味は必読。20ページ足らずでメンデルからワトソンクリックドーキンスを経てトゥービー/コズミデスによって統合された概念までを読み解くことができる(前半で執拗に繰り返される「生まれは育ちを通して」を読んでないと全くわからない概念かもしれないが)。

最終章となる10章で行動すら左右する遺伝子が、子宮を含めた発生の過程で環境によって表現する内容を変化すさせる、という知見をもとに、7つの教訓を掲げる。「……である」という事実から「……であるべき」という指針を導きだして行われた人種差別アウシュビッツ人間工場理論新興宗教コミュニティなどの愚行を激しく糾弾してきた著者が慎重に選び出した道徳的な教訓だ。いずれも勇気づけられる教訓だが、自動虐待に関連した遺伝子発見、という大きな問題も投げかけられているあたり、きちんと考えさせられるところもすごい。

これだけの内容が、300ページちょっとで収まっていることがまず驚きだ。あまりに面白くて思わず読み飛ばしてしまいそうになるのにブレーキをかけながら、じっくり読んだ。こんな経験は久しぶりだ。

遺伝に関する病気や、児童虐待暴力的な心理を引き起こす「遺伝子」なんてシビアネタもあるけれど、ぜひとも、パートナーに、パートナーと一緒に読んでほしい一冊だ。

評価:☆☆☆☆☆

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